集中に適した緊張状態がある?「ヤーキーズ・ドットソンの法則」で集中に必要な緊張を知る

集中に適した緊張状態がある?「ヤーキーズ・ドットソンの法則」で集中に必要な緊張を知る

集中状態に関する理論はいくつかあります。

以下の記事では、「フロー理論」について説明しました。

この記事では、緊張と集中の関係性においてよく引用される「ヤーキーズ・ドットソンの法則」について説明します。

ヤーキーズ・ドットソンの法則とは

フロー理論と少し近いものとして生理心理学の基本法則と言われる「ヤーキーズ・ドットソンの法則」があります。

ヤーキーズ・ドットソンの法則(Yerkes-Dodson law)は1908年、文字通りヤーキーズ(Yerkes)とドットソン(Dodson, 発音的には「ダッドソン」の方が近いもよう)の2名が報告した、マウスを用いた実験の報告を元にした原理です1)Karl Halvor Teigen(1994) Yerkes-Dodson: A Law for all Seasons Theory & Psychology 4(4):525-547

彼らは実験用のマウスに「白黒判別法」と呼ばれる動作を行いました。
これは、白黒の通路を用意し、白の通路(または箱)に入った場合は電気刺激を与えるというものです。

極めて簡単そうですが、ネズミの視覚は色の識別や視力で人間よりも劣る性質があるようです2)http://www.issmsmsna2012.info/nezumi_gokan/。その意味ではそこまで簡単でないと言えるでしょう。

彼らは電気刺激の強さ(ストレス・緊張)が学習に与える影響を測るため、電気刺激の強さを変えてそれぞれ実験を行いました。

法則のもとになった3つの実験

1度目の実験 -電気刺激が強すぎると学習効果が下がる-

当初は三段階の強さを設定し、「電流が強くなればなるほど(ストレスが高まるほど)、成功率(つまり学習効果)が上昇する」という仮説のもと3段階の電気刺激を用意して実験を行いました。

ところが予想に反し、最も強い刺激ではパフォーマンスが落ちる結果が得られました(図1)。

1回目の実験の結果
[1]をもとに筆者作成

2度目の実験 -最も強い刺激で最も高い学習効果-

1度目の実験から、彼らは、「電気刺激に対して学習効果は、U字型のフィードバック(最初は刺激が強まるほど効果は上がるが、強くなりすぎると低減する)を示す」と考え、さらに細かく5つの刺激の度合いに分けて実験を行いました。

ところが2度目の実験では、またも予想に反して電気刺激が最も強い試行において学習効果が最も高まる結果となりました。

2回目の実験の結果
[1]をもとに筆者作成

3度目の実験 -タスクの難易度が学習効果を分ける-

2度目の結果を受け、3度目の実験では彼らはタスクの難易度に着目しました。
そして実験において、より光を弱めることにより白黒の判別を難しくしたタスクを新たに設定、マウスを二つの群に分けてそれぞれ実験を行いました。

その結果、より難しいタスクにおいては、1度目の実験同様、難易度が高すぎると学習にかかる時間が長くなり、2番目に弱い刺激で最も高い効果が得られました

3回目の実験の結果
[1]をもとに筆者作成

一方で弱い刺激では、刺激が強いほど学習効果が高いことも示されました。

集中やパフォーマンスを考える上で重要な逆U字の理論

詳細な説明は割愛しますが、この後も、この実験をもとに、ストレス・取り組む難易度と学習効果の関係が実験により明らかにされていきました。

その結果、得られたのは以下の結果です。

逆U字型の人間の覚醒の変化
[1]をもとに筆者作成

横軸は人間の覚醒度合い、縦軸はパフォーマンスを表しています。このように、寝ている状態を覗き、覚醒時には、人間のパフォーマンスはU字型を示します。
頂点、つまり最適なパフォーマンスを発揮できる状態になるのは、緊張と覚醒がちょうどいい状態になった時です。

これは「いい緊張は2倍にする」(樺沢紫苑 文響社)によると、スポーツの世界でもよく知られている理論だそうです。

パフォーマンスや緊張には適度な緊張状態が必要であることを知るために重要な理論だと言えます。

まとめ

この記事ではヤーキーズ・ドットソンの法則の生まれた背景と、その概要について説明しました。

近い理論に冒頭で触れた「フロー理論」があります。
「フロー理論」について詳しく知らない方は以下の記事も合わせて読むとより理解が深まると思います。

References

References
1 Karl Halvor Teigen(1994) Yerkes-Dodson: A Law for all Seasons Theory & Psychology 4(4):525-547
2 http://www.issmsmsna2012.info/nezumi_gokan/

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