生産性はどうやったら上がる?ホーソン実験に見る人間の集中力の本質

生産性はどうやったら上がる?ホーソン実験に見る人間の集中力の本質

前回の記事ではホーソン効果について説明しました。

ホーソン効果の元になったホーソン実験では、ホーソン効果で説明される人間の関係性についてだけでなく、外部環境の諸条件と生産性の関係性についても観察が行われています。

そのためこの実験は100年以上経つ今でも人間の生産性はどのような条件下で最も上がるのかについての示唆を与えてくれます。

この記事では論文をもとにホーソン実験の概要と、実験内容、その結果についてまとめ人間の生産性についての本質に迫ります。

ホーソン実験とは

ホーソン工場のイメージ
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%82%BD%E3%83%B3%E5%B7%A5%E5%A0%B4より引用

ホーソン実験とは、1924-1932年の間にシカゴのウェスタン・エレクトリック社のホーソン工場で行われた一連の社会実験です。

人間の生産性と外部環境の関係性を探るために行われた実験でしたが、実験途中に真に人間の生産性に影響を与えるのは人間の関係性であるという重要な事実に行き着きました。

これはホーソン効果として100年経った現在でも心理学で最も有名な効果の一つになっています。

ホーソン効果については以下の記事も参照してください。

大規模かつ長期にわたる社会実験には多くの批判があるようですが、一方で現代では再現可能性が低いからこそ重要な示唆を与えてくれています。

ホーソン実験の内容

ホーソン実験は冒頭でも述べたように、もともとは外部環境と生産性の関係性を調べる実験でした。

ホーソン実験の内容については、ホーソン実験の内容についてはRoethlisberger, F.J.&Dickson,W.J.の Management and the Worker (1939)に600ページにもわたり詳細に記載されているようです。

ここでは、さすがに全文を参照することはできないので、ホーソン実験の要点がまとめられた倉田致知(ゆきつぐ)先生の論文を参照します1)倉田致知 Management and the Workerの概要 -ホーソン実験について- 京都学園大学経営学部論集 第21巻第1号 2011年10月 p259-302

照明実験

ホーソン実験のもともとのねらいは「作業室内の照明の質と量が従業員の作業能率にいかなる影響を及ぼすかを発見する」ことでした。

この実験は3期に分けて行われ、異なる照明条件下でのアウトプットの結果を観察しました。

第1期の実験

第1期の実験では全部門(検査部・リレー(継電器)組立部・コイル巻部)で照明度を強くする実験を行いました。

結果は以下のようになったようです。

  • 検査部:アウトプットは照明度に関係なく乱高下
  • リレー組立部:継続的に作業の能率は上昇したものの照明度が唯一の変数ではなかった
  • コイル巻部:明度の上昇とともに能率は上昇する一方で明度を下げても能率は常に低下する訳ではなかった

どれも明確な関連性は認められなかった結果です。

第2期の実験

第二期は「コイル巻部」のみで実験を行いました。

この実験ではは同じ経験を持つ工員が同じ数になるように二群のグループに分けました。それらの平均のアウトプットはほぼ同じだったため差異の観測が期待されました。

一方では照明度を上昇、もう一方では照明度を一定として競争意識を双方が持たないよう、隔離された建物で行われました。

結果は「両集団において非常に明瞭な生産上昇が生じることとなり,それはほぼ同じ上昇幅」だったようです。

これは直感的な結果とは矛盾しますね。

第3期の実験

第2期までの実験で日光の差し込みがあったことから、これらを遮断し、電灯の明かりのみで実験を行いました。

実験は第二期と同様の形で行われ、今度は照明度を実験群(前者)において落としていきました。

結果は、照明度を低い値へ変化させても能率は漸進的かつ安定的に上昇する結果になりました。

以上のように、3期に渡る照明の実験では照明と生産性の関係性は見出せない結果に終わりました。

一方で、この実験をきっかけとして人間関係の変数による作業能率の変化への関心が強まったようです。

リレー組立作業実験

次に行われたのが労働時間や休憩に関する実験です。

実験ではリレー組立部の工員が6名選抜され、加えて観察者を配置するという条件で、就業時間・休憩時間・軽食の有無・インセンティブなどの条件を変更して13期に渡り、実験が行われました。

実験の詳細は省きますが、様々な条件を変更しながらアウトプットを観察したところ、作業条件の変更による生産量の変動は確認されないという結果が得られました。

その一方で生産量は全体的に上昇する傾向が見られました。

ここでは生産量の上昇に関して以下の5つの仮説が示されました。

  1. 実験室が元の作業場よりも幾分作業環境がよかった
  2. 実験で休憩や軽食を導入したことによりもとの労働の疲労蓄積を軽減していた
  3. 休憩などの導入が作業の単調さを軽減していた
  4. 少人数での実験において集団出来高給制のインセンティブの価値が相対的に上昇したことでモチベーションが上がった
  5. 実験の特殊な環境下での監督者との効果的・友好的な労働関係がモチベーションを高めた

あらゆる仮説の検討の中で最終的に得られた仮説が5つ目の社会的価値に関する仮説です。これは人間関係が生産量に影響を与えるのではないかという気づきを強める結果となりました。

第2次リレー組立作業実験

次の実験では別の作業員5名を選抜し、同様に隔離して実験を行いました。

この実験における主要な変数は集団出来高給制(集団の成果に対してインセンティブ)の導入でした。

この実験では集団の一時間あたり平均生産量はそれ以前との比較で12.6%もの上昇が見られました。

報奨との強い関係性を感じる一方で、実験中の平均生産量はほとんど上昇しておらず、インセンティブの導入は効果の持続性が低いことが示唆されました。

また生産量の増加については、実験に参加できるということがモチベーションとなっていた以前の実験で選抜された工員と同等のパフォーマンスが自分にもできるということを示す機会として工員たちが実験を捉えていたなどの事実も関係しているとされています。

雲母剥ぎ作業実験

次に別の生産ラインの5名の熟練工が選抜され、個別出来高給制(個人の成果に対してインセンティブ)が導入されました。

また、後半は休憩の導入休日労働の廃止などが行われました。

結果は以下の通りとなりました。

休憩時間について

通常の職場での労働時よりも平均生産量は実験開始後緩やかに上昇傾向が見られました。

一方でその上昇幅は個人差があり、また、最終的に平均生産量は下降していきました。

これには人員削減や会社の業績不振などの負の要因もあると考えられたものの、休憩の導入により明確な生産性の向上は確認できない結果になりました。

個別出来高給制について

この実験で導入された個別出来高給制についてもそれ単体が生産性の上昇に寄与しているという明確な根拠は得られませんでした。

というのも、期間中この条件は変わらない中で他の条件変更や職場の動向などにより生産性には変化が見られたためです。

これらの結果をもとに奨励給は他の要因との強い依存関係にあり、それのみでは工員のモチベーション、生産量の向上には寄与しないという結論が導かれました。

面談プログラムの実施

実験と並行して、現場の労働者21,126名に対して面談プログラムも開始されました。

面談の中では、従業員の不平や不満について聴取し、それらが単一の原因に限定されないこと、様々な変数の組み合わせで生じていること、故に生産量の多寡の変数を単一の変数に設定することは難しいことなどが示されました。

当たり前といえば当たり前ですが、給料を上げれば、休憩を増やせば生産性は向上するというような単純な線形関係にはないことをこの実験は明らかにしたわけです。

また同時に役職を持つ管理職についても面談を実施し、結果として、組織内でのポジションや関係性、つまるところ社会性が大きくこれらの変数に依存しているということも明らかにしています。

パンク配線作業監察室

次の実験では、面談でヒアリングした労働者の感情と、実際の作業においてそのような感情がどのように反映されていたかの乖離を問題として、以下の2つの目的をもって行われました。

  1. 新たな方法の開発
  2. 社内の社会集団についてのより正確な情報の入手

この実験で対象となった工程は「バンク配線」と言われる工程で、配線工、ハンダづけ工、検査工の3グループがいわゆる流れ作業の形で行うものでした。

流れ作業であるため、各グループの生産量は他のグループの生産量に大きく依存しました。

また、一方で基本の時間給に加えて集団出来高制を導入することにより、各個人の給料を上げるためには「全体の生産量」を増大させるしかないという給料条件が設定されました。ここで意図されていたのは、この仕組みによる「相互監視」が自主的に行われることでした。

しかし、結果は期待に反し、そう生産量を増やす方向に動くのではなく、各個人の生産量は一定の値を示し続けました。これは意図的な作業中断や能率の低下、申告量の改ざんによるものも含まれていたことが指摘されています。

そしてこの作業能率の低下は、作業時の観察者の役職によっても異なりました。

上司のポジションは上から次長・統括職長・職長・職長補佐・組長・班長となっていましたが、職長補佐より上位の人が観察に来ると計画通りに活動する傾向が見られました。

班長・組長など下位の管理職においては部下の意図的な生産制限があることをみとめながらもそれを黙認し、上司に隠していたこと、そのため職長以上は生産制限に無知のままだったことも指摘されています。

つまり経営者側の意図に反し、組長以下で、生産量を抑制するような小さな社会が形成されていたということです。

これにより何らかの誘導・インセンティブにより従業員の生産性はあげられるという仮説は否定されることになりました。

そして興味深いのはこの結果が実験グループが怠惰だったわけでも、能力が低かったわけでも、上司に抵抗を示したわけでもないという点です。

彼らは、その集団において、①密告しない、②他者に干渉しない、③頑張りすぎない、④さぼりすぎないという暗黙のルールを守っただけでした。生産量の制限という事象は、内部の社会的な統制や規範により生じていたわけです。

まとめ

ホーソン実験の内容について説明しました。

これらの実験内容と結果を見ると、人間の生産性が単一の変数ではなく、いろいろなものに大きく依存していることがわかります。

そしてそれは人間が社会的な存在であることに大きく関係がありそうです。

これは当サイトが扱っている集中力に関しても同じです。

集中力は個人の能力のみに依存しそうですが、実際には人間の関係や社会性と不可分の関係にあります。

複雑で難しいからこそ、取り組みがいのあるテーマだと思います。

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