集中できる空間と聞いてどんな場所を思い浮かべるでしょうか?
カフェ、図書館、自宅のリビングなど普段の経験から集中しやすい場所を持っている人も多いと思います。
集中できる空間は理論的に説明が可能なのでしょうか?
この記事では集中と空間をテーマにしたいくつかの既往研究をもとに集中できる空間について考察します。
くつろげる空間は集中できる空間?
リラックスと集中は対照的な概念として捉えられると思います。
では集中できる空間はリラックスできないのでしょうか?
「集中できる」「くつろげる」という対照的な言葉を使って部屋の使い方についての印象を聞いた研究があります1)笠尾円、大井尚行、高橋浩伸「学生が私室で行う行為とその特性分類 住宅における「集中できる」空間と「くつろげる」空間に関する研究」 日本建築学会大会学術講演梗概集(関東) p825-826 2006年。
この研究結果からは、集中できる空間とくつろげる空間とはかならずしも二律背反の存在ではなく、むしろその価値判断の基準は似た部分があることを明らかにしています。
確かに冒頭であげたようなカフェ・図書館・リビングといった空間はリラックス空間としても機能することが納得できます。
この実験は私室の写真をいくつか提示し、被験者にくつろげるかどうか、集中できるかどうかの基準でそれぞれの評価を促したものであることから、各個人がどのように空間を使い分けているのかまでうかがい知ることはできません。
しかし集中できる空間と人が評価するときの価値基準がリラックスできる空間の評価の基準と実は似通っているという示唆は興味深いですね。
休憩時には場所を変えると気分転換になる
気分転換に焦点を当て、気分転換を図る際に空間を移動することの是非について調査した研究もあります2)本田悠夏、長澤夏子、渡辺仁史 「気分転換を促す空間に関する研究」 日本建築学科大会学術講演梗概集(九州) p1155-p1156 2007年。
空間の推移(場所の変更)によって気分転換の効果が得られることが結果として述べられています。
また同時に休憩時間に場所を移動することによって作業再開時の作業効率が高められることが示唆されています。
そしてこの効果は開放的な空間に加え、直感的には快適とみなされない閉鎖的な空間についても気分転換に適しているとされています。
このことは休憩時にとりあえず場所を移動してみることの有効性を示唆しています。
人の影が集中力を妨げる?
人の影が集中力に与える影響をみた興味深い実験もあります3)仲田浩之、川瀬貴晴、宗方淳、吉岡陽介 「周囲の人影が机上面での作業に対する集中度に与える影響」 日本建築学科大会講演梗概集(東北) p49-p50 2009年。
特に面白いのは単純に影を提示するだけでなく動きの有無、被験者の正面に投影した時、脇に投影した時をそれぞれ比較している点です。
結果として集中を妨げるパターンとして、以下のようなものが挙げられています。
- 側方の遠い位置で高速で動く人影
- 側方の停止した近い位置の人影
- 正面の中速で動く人影
正面の遠い人影については比較的気にならないとしています。
背後、特にサイドに人の存在を認識しないような壁やパーティションの配置が求められると言えるのではないでしょうか。
例えば背中に壁があるとその点では安心ということができそうです。
まとめ
この記事では集中できる空間について既往研究を参照しながらいくつかのトピックを紹介しました。
冒頭の「集中できる空間」はあるのか?という問いに答えると、集中できる空間といっても、個々人の感覚や経験則によっても違うので、その定義は一筋縄ではいかないと言えそうです。
一方で取り上げたような、休憩時の場所の移動、人の影を遮る工夫などは誰にでもできる工夫と言えそうですね。
これらの観点をもとに自分の作業環境を見直してみてはいかがでしょうか。