集中できる作業環境を考えるに当たって、視覚に関する考慮は外せません。
特に作業時の照明環境は視覚に大きな影響を与えます。
それでは、集中できる照明の条件などはあるのでしょうか?
この記事では、これまでに照明と作業時の集中に関して行われてきた研究を参照し、作業時の集中と照明の関係性について考察します。
視覚が九割?人間の五感で最も情報を多く受け取る視覚
視覚は情報の需要の上で五感の中でも特に重要な役割を果たしています。
健康な成人の五官(目・耳・鼻・舌・皮膚。五官で感覚器の総称を指すようで誤字ではありません。)による情報摂取の割合を示した照明学会の「屋内照明のガイド」によると、87%もの情報が視覚によるものとされています(佐藤準一「五官を大切に」日本マリンエンジニアリング学会誌 第51巻 第5号 2016)。
ちなみにプレゼンテーション技術における話者の聴衆に与えるインパクトについて、言語情報、聴覚情報、視覚情報の3つを比較し、視覚情報が55%と大半を占めることを示したメラビアンの法則もあります1)藤本光司, 林徳治, 沖裕貴 「学生参画型授業モデルの開発に関する実証研究(2)-強制連結法を活用した教材のVisual化による学習効果-」 日本教育情報学会第22回年会 2006。
照明と集中力
照明と集中力の関係について述べたいくつかの論文を参考に集中できる照明の条件を見ていきます。
全般照明よりも局部照明の方が集中できる?
思考を要する作業と、比較的単純な作業とを被験者に行わせ、作業平面を比較的均等に照らせる全般照明と、一箇所を集中的に照らせる局部照明のそれぞれのもとで結果を評価した実験があります。
事務的な作業では被験者の主観的な評価は全般照明の方が集中できるとの結果を示したものの、客観的評価をもとにすると局部照明が集中できるという観点ではメリットが大きいという結果になりました。
2)明石行生, 金谷末子, 八木昭宏 「作業の集中度と周辺照度/作業面照度の比との関係」 照明学会誌 第80巻 第8A号 1996年
集中したい状況ではデスクにデスクライトを設置して作業場所を明るくしておくことでより集中できることが示唆されています。
人工照明よりも自然光の方が集中できる?
人工照明よりも自然光の方が、よりポジティブな効果が得られるとする研究もあります。
東京電機大学などの研究チームによると、一般LEDと太陽光に近いスペクトルを持つ太陽光LEDの比較で、累積的なストレス、疲労の抑制に加えて、作業における集中力、落ち着きなどを上昇させる効果があることが示された、としています。
3)家田 那央, 島田 尊正, 深見 忠典, 田中 義治, 浅川 れんげ, 加賀 絵美 「太陽光LEDの生理的・心理的および知的作業への影響」 生体医工学 p255_2 Annual57巻 Abstract 2019
また、KEDや蛍光灯などの照度の一定の光源は人の体内時計を狂わせるとの意見もあります4)井上一鷹 「集中力 パフォーマンスを300倍にする働き方」 日本能率協会マネジメントセンター 2017。
実験は、自然光と人工照明を比べたものではありませんが、十分に採光できる作業空間を持っておくのは効果的かもしれません。
おまけ 集中と照明に関わる通説
もっとも集中できるのは暗闇の中の光??
暗闇の中の光が集中できるという主張があります。
集中力を可視化するメガネ「JINS MEME」の開発に携わった井上一鷹氏は著書の中で以下のように述べています。
また、究極の集中の環境というのがあります。暗闇の中で机上だけがスポットライトのように照明が当たっている状態です。こうした環境だと、周りで起きていることに意識を向けないで済むので、集中度が上がるようです。
井上一鷹 「集中力 パフォーマンスを300倍にする働き方」 日本能率協会マネジメントセンター 2017
映画館効果という言葉でしばしばサイトなどで取り上げられていますが、証拠となる文献は見当たりませんでした。実際に試しづらいことも含めてあまり実用性はあるとは言えません。
照明は生産性に大きな影響は与えない??
人と一緒に仕事をする環境においてはこうした外部環境、外部刺激よりも人間関係の方がより重要であるという話もあります。
照明などの外部刺激と労働者の生産性を調べた古典的な大規模実験である、ホーソン実験ではある閾値を超えると生産性は低下するものの、照度と生産性に強い関連性は見受けられず、それよりも働く労働者の関係性に依拠するところが大きいことを示しています。
まとめ
この記事では集中に関わる要素として照明の影響を考察しました。
デスクライトを用意すること、日中陽のあたる時間には、窓から採光するなどして、部屋の照度にメリハリをつけつつ自然光のメリットを取り込むことなどが集中する上では重要だと言えそうです。
ぜひ部屋の照明を考える上で参考にして見てください。
References
↲1 | 藤本光司, 林徳治, 沖裕貴 「学生参画型授業モデルの開発に関する実証研究(2)-強制連結法を活用した教材のVisual化による学習効果-」 日本教育情報学会第22回年会 2006 |
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↲2 | 明石行生, 金谷末子, 八木昭宏 「作業の集中度と周辺照度/作業面照度の比との関係」 照明学会誌 第80巻 第8A号 1996年 |
↲3 | 家田 那央, 島田 尊正, 深見 忠典, 田中 義治, 浅川 れんげ, 加賀 絵美 「太陽光LEDの生理的・心理的および知的作業への影響」 生体医工学 p255_2 Annual57巻 Abstract 2019 |
↲4 | 井上一鷹 「集中力 パフォーマンスを300倍にする働き方」 日本能率協会マネジメントセンター 2017 |