人はどんな環境だと集中できるのかについては、視覚・嗅覚など様々な要素から検証がなされています。
そんな人の集中力や生産性が上がる環境についての興味深い研究の一つに「バイオフィリア効果」があります。
この記事ではバイオフィリア効果とはなにか、バイオフィリア効果と集中力の関係や、実際の活用事例について紹介します。
バイオフィリア効果とは?
まず、バイオフィリア効果とはなんでしょうか?
バイオフィリアという言葉自体はそれ以前、アメリカの精神分析家エーリヒ・フロム(Erich Fromm)が1973年に著書「The Anatomy of Human Destructiveness」で記述したのが始めのようです1)https://www.britannica.com/science/biophilia-hypothesis。
一方で今日一般に知られているバイオフィリアは、1984年にエドワード・オズボーン・ウィルソン(Edward O Wilson)が著書で提唱した「バイオフィリア仮説(BioPhilia Hypothesis)」のことを指します。
バイオフィリアについて本書冒頭では以下のように書かれています。
BIOPHILIA, if it exists, and I beliece it exists, is the innately emotional affiliation of human beings to other living organisms.Innate mean hereditary and hence part of ultimate human nature.(バイオフィリアは、それが存在する場合、それが存在すると私は信じていますが、他の生物に対する人間の生来の感情的な帰属です。先天性遺伝性であり、したがって究極の人間の性質の一部です。)
バイオフィリアはbio(生命の) + philia(愛)という意味です。
簡単に言えば、バイオフィリアとは人間は先天的に他の生物(植物・動物・自然)に対する愛着の感情を持っているという仮説です。
人は本能的に生命や自然との結びつきを求めており、自然に触れることで生産性の向上、ストレス解消などのプラスな影響を受けるとされています。
バイオフィリア効果とは、このバイオフィリア仮説で示唆されている自然や生命から人間が受けるポジティブな効果を指します。
ちなみに余談ですが、反対の概念「特定の生き物(例:蛇や蜘蛛など)への嫌悪が、後天的に学ばれる以前に、自然界の一部を嫌う性質を先天的に持つ」という仮説、バイオフォビア(biophobia)という概念も説明されています。2)https://www.cscd.osaka-u.ac.jp/user/rosaldo/UPD_151.html
バイオフィリア効果の応用-バイオフィリックデザイン
バイオフィリックデザインとは?
バイオフィリア効果を具体的に応用した事例として「バイオフィリックデザイン」が知られています。
バイオフィリックデザインとは、文字通りバイオフィリアの考え方を建築などのデザインに応用したものです。
前述のバイオフィリア効果により、生産性の向上やメンタルヘルスの改善が期待されるため近年注目を集めています。
詳細は割愛しますが、ロバートソン・クーパー社の調査をタイルカーペットなどを手がけるInterface社がまとめた「Human Spaces: 世界の職場における、バイオフィリックデザインが与える影響」には詳細が記載されています。興味のある人はこちらも参照してください。
バイオフィリックデザインとオフィス
バイオフィリックデザインは主にオフィスのデザインに応用されています。
ここではいくつかの事例を見てます。
Amazon本社の「The Spheres」
https://archinect.com/news/article/150134304/the-amazon-spheres-get-reviewedより引用
バイオフィリックデザインの事例として最も有名なものの一つがAmazon本社前にある「The Spheres」です。
球体が連なった形状で、外観だけでも驚きですが、内部の大胆な自然の取り入れ方はもっと驚きです。まさにバイオフィリックデザインを体現していると言えるでしょう。内部については以下のビデオをご覧ください。
スペインの建築事務所「Selgas Cano Architecture Office」
スペインの建築事務所Selgas Cano Architectureのオフィスも典型的な事例です。
まさに森の中にあるオフィスといった感じで、非常に魅力的です。
国内での事例
国内だとあまり大規模なものは見つかりませんでしたが、オフィスに緑化を取り入れる傾向は見られるようになってきているようです。
エクスター大学のCraig Knight博士らは3つのオフィスにおけるフィールド調査をもとにこうしたオフィスの植物が与えるポジティブな効果を検証しています(いくつかのサイトでクリス・ナイト博士と言及されていますが、そのような研究者の情報はなく、これは参照元のThe Guardianの記事がCraigをChrisと誤って記述したためと思われます。)3)https://psycnet.apa.org/record/2014-30837-001。
実験結果は緑化が生産性向上に寄与することを示しています。オフィス緑化もバイオフィリアの一環と捉えることができるでしょう。
パナソニック本社におけるCOMORE BIZ(コモレビズ)のオフィス緑化事例、公園のようなオフィスを実現したサイボウズ本社の事例などがあげられます。
自然の中にオフィスを作るような試みは難しいかもしれませんが、このような緑化の形でバイオフィリアが国内でも今後受け入れられていくかもしれません。
まとめ
この記事ではバイオフィリアの概念を紹介し、具体的な効果とその活用例について説明しました。
バイオフィリックデザインを日々の作業スペースに応用することでより集中しやすい環境が作れるかもしれません。