集中力は、物事に没頭する力と解釈している人も多いと思います。
実際、集中力が高まっている状態として有名なフローの状態では「時間を忘れるほどの没頭」によって、その状態を説明しています。
一方で、没頭しすぎる、やりだすと止まらないという衝動も存在します。集中しているのはいいですが、それが原因で他のことに手がつかなくなるのは問題です。
実際研究でも集中力は事故の抑制能力と不可分な能力のようです。「ハーバードメディカルスクール式 人生を変える集中力」(ポール・ハマーネス マーガレット・ムーア ジョン・ハンク著 森田由美訳 文響社)ではこうした関係性について理論も用いて具体的に説明がされています。
この記事では集中と抑制という一見対立した概念の関係性について説明します。
パフォーマンスと抑制の関係
思考の整理には3つの状態が必要になる
高いパフォーマンスを発揮するためには、常に頭の中が整理されている必要があります。
思考の整理には3つの状態が必要になると言われています。
- 動揺を抑えて落ち着いている状態
- 集中力が持続している状態
- ブレーキをかけられる状態
注目したいのは3つ目の「ブレーキ」についてで、ここでいうブレーキは注意力を制御する能力を指します。
「ハーバードメディカルスクール式 人生を変える集中力」ではデボラという女性の例を取り上げて、この能力が欠如しているとどのような状態になるかを説明しています。
デボラの事例
デボラは「物事を最後までやり通せない」ことに悩んでいました。
作業を開始する前は3つの作業を片付けようと思うのにも関わらず、終わってみれば1つも片付いていないことがあるというのです。
その具体例として彼女はガレージの掃除の事例を取り出します。
ガレージの掃除をしようと思った彼女は一時間で終わると見積もっていたものの、懐かしい手紙を見つけて読んで見たり、当初掃除するつもりがなかった場所にも注意が行ったりして結局4時間以上も掃除に費やしてしまいました。
やり始めたら一向にやめられず、他の作業に手が回らなくなると訴えたのです。
デボラが没頭しすぎる原因
デボラがやり通せない理由は明らかに、冒頭で述べた「ブレーキ」の欠陥にあります。
彼女には集中を持続することはできる一方で、それを中止する能力が欠如していたのです。
GOGO(ゴーゴー)課題とNOGO(ノーゴー)課題
心理学者が抑制制御能力を調べる際に行う試験にGOGO/NOGO課題というものがあります。
被験者はGO(やる)のシグナルが出た時に反応し、NOGO(やらない)のシグナルが出た時に反応を中止しなければなりません。
これは極めて簡単ですが抑制が苦手な人は反応の中止がしづらいことがわかっています。
そしてこの認知課題は特にADHD(注意欠陥・多動性障害)の患者の判定に用いられます。
ADHDは抑制ができない人
ADHDの特徴として集中力がない、落ち着きがないなどが挙げられますが、これらの多くはこうした自己制御能力の欠如に起因しています。
ADHD研究の第一人者ラッセル・バークレー博士はこうした原因に言及し、行動を起こす前に立ち止まって考える能力の欠如をADHDの共通した特徴として言及しています。
また、神経心理学者ジョセフ・サージェントらの研究者グループは、ADHDと普通の人を比べた実験で、最も大きな違いが確認されたのは抑制を伴う課題であったことを明らかにしているそうです。
ADHDの人の中には「過集中」、つまり集中し過ぎてしまうという症状があるのもこのためです。
過集中については以下の記事でも説明しています。
集中できない、と抑制できないはほとんど表裏一体の現象であることがわかります。
一般的にイメージされる、集中力が高い人、ハイパフォーマーに近づくためには、自己の制御能力も同時に獲得していく必要があると言えます。
まとめ
この記事では抑制・自己制御能力とパフォーマンスの関係についてADHDのひとの特徴にも言及しながら説明しました。
勉強に集中できず、ついYoutubeを見ていたら時間が過ぎてしまうという人は、Youtubeの視聴に集中し過ぎているともいえるため、集中力と抑制力は同じ能力の表と裏であることがわかります。
書籍では、取り上げた3つの状態のうち、落ち着いた状態・集中状態になるための方法についても医学とコーチングの観点から紹介されています。集中力がないという方は、集中力を高めるためのヒントが見つかるはずです。ぜひ読んでみてください。