近年リラックスの方法として、アクティブレストの考え方が注目されています。
アクティブレストは、体を動かすことによって疲れを取り除くという考え方の休息です。
リラックス効果をもたらし、作業に集中できない時のリフレッシュ法としても効果的であると言われています。
この記事では、アクティブレストとは何か、本当に効果があるのかについて見ていきます。
アクティブレストとは?
アクティブレストは休息の方法の一種です。
休息は、消極的休息(パッシブレスト)と積極的休息(アクティブレスト)の大きく二つに分けられます。
前者は安静にして休むものを指し、後者は作業で使用しなかった部位を活動させることで疲労をより促進的に解消するものを指します1)和泉光保「暗算における積極的休息が暗算作業量に及ぼす影響について」 近畿福祉大学紀要 Vol.8 (2) 139~144 2007。
アクティブレストが注目されるわけ
近年、アクティブレストが注目されるようになった背景に産業構造の変化が挙げられます。
かつての労働はおもに肉体運動を伴うものでした。
しかし現在では労働内容が大きく変わりデスクワーカーの割合が増え、精神労働の比率が多くなっています。2)加藤恵子「精神作業の疲労回復に及ぼす運動の効果」名古屋文理短期大学紀要 第15号 1990
このような変化の中で、かつては安静や睡眠が休息の常識でしたが、新たに運動・レクリエーションにより回復を測る考え方が出てきました。これがアクティブレストです。
一般的にはこれまで活動していなかった部位を運動により活動させることで休息の質をあげることがこれに当たりますが、異質の精神作業を与えることで効果を期待するものもアクティブレストとみなす考え方もあります3)佐田吉隆「内田クレペリン精神検査を用いた精神面での積極的休息の効果」 資格心理学研究 第8巻 第2号 128-129。
アクティブレストは本当に効果的か?
ではアクティブレストは果たして効果があるのでしょうか?
アクティブレストの効果については様々な研究で検証が行われています。
ここではいくつかの研究を取り上げその効果について見ていきます。
寝転がった状態でのペダリングが計算作業に与える影響
自転車エルゴメーター(自転車のペダルをこぐ形で身体能力を測定する装置)を仰向けに寝た状態で行った場合と、ただ寝転がっていた場合とで、単純な計算課題の成績を比較した実験では、運動後に計算成績の向上が見られました。
これには「覚醒度」が関係するという可能性が示唆されています4)松田生米夫, 藤田信義, 渡辺謙 「身体運動が計算成績に及ぼす効果」 Research Journal of Physical Education, Vol.18, No.3, pp. 135~143 1973。
軽作業と内田クレペリン精神作業検査
内田クレペリン精神作業検査は一桁の数字の足し算の下一桁を記入していくような課題で、集中力の測定などによく用いられます(参考:https://kicho-navi.jp/kraepelin-test/)。
この検査において、バスケットボールのシューティング、非利き手での不規則パターンの描写をそれぞれ行なった後の結果を検証した研究があります。
前者では、運動後の成績において正答数が向上したこと、誤答数が減少していることが示唆されています5)加藤恵子「精神作業の疲労回復に及ぼす運動の効果」名古屋文理短期大学紀要 第15号 1990。
後者では、統計的に優位な差は見られなかったものの、誤答数の変化でポジティブな変化がみとめられる可能性が挙げられました6)佐田吉隆「内田クレペリン精神検査を用いた精神面での積極的休息の効果」 資格心理学研究 第8巻 第2号 128-129。
タッピングと暗算作業
タッピング(計機上で叩く作業)をアクティブレストとして行い、暗算作業における結果を比較した実験もあります。
この実験では、アクティブレストとパッシブレスト(2分間の閉眼安静)を組み合わせたもので最も結果がよくなったこと、一定の限度を越えるとアクティブレストが逆効果になる可能性があることが報告されています7)和泉光保「暗算における積極的休息が暗算作業量に及ぼす影響について」 近畿福祉大学紀要 Vol.8 (2) 139~144 2007。
歯磨きとアクティブレスト
アクティブレストとして歯磨き作業を検証した研究もあります8)左達秀敏, 村上義徳, 外村学, 矢田幸博, 下山一郎 「歯磨き行為の積極的休息への応用について」 産業衛生学雑誌 52: 67-73 2010。
ここでも有意にポジティブな効果が得られたことが報告されており、これには手の運動に加えて、口腔内への刺激、歯磨き粉の香り成分などの影響も考えられるとされています。
まとめ
この記事ではアクティブレストについて紹介し、その効果などについていくつかの文献をもとに説明しました。
実験で見られるようにジョギングなどのいわゆる運動を伴わなくとも、簡単な作業によって効果が期待できます。
なんとなく集中が続かなくなってしまった時に、なにか簡単にできる作業を探してみてはいかがでしょうか。
References
↲1, ↲7 | 和泉光保「暗算における積極的休息が暗算作業量に及ぼす影響について」 近畿福祉大学紀要 Vol.8 (2) 139~144 2007 |
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↲2, ↲5 | 加藤恵子「精神作業の疲労回復に及ぼす運動の効果」名古屋文理短期大学紀要 第15号 1990 |
↲3, ↲6 | 佐田吉隆「内田クレペリン精神検査を用いた精神面での積極的休息の効果」 資格心理学研究 第8巻 第2号 128-129 |
↲4 | 松田生米夫, 藤田信義, 渡辺謙 「身体運動が計算成績に及ぼす効果」 Research Journal of Physical Education, Vol.18, No.3, pp. 135~143 1973 |
↲8 | 左達秀敏, 村上義徳, 外村学, 矢田幸博, 下山一郎 「歯磨き行為の積極的休息への応用について」 産業衛生学雑誌 52: 67-73 2010 |